3月

26

水が変わったとき

この話をときどき思い出す。
『スーフィーの物語』に出てくる話。
短くするために話を端折るが、
だいたいこんな話だ。

ある師が人びとに警告を発した。
「やがて時が来ると
 特別に貯蔵された水以外は
 すべて干上がり、
 そののち水の性質が変わって
 人びとを狂わすだろう」
ひとりの男だけが
この警告に耳を傾けた。
その男は水を安全な場所に貯蔵した。
ある日、川の流れが止まり、
水が干上がった。
男は貯蔵していた水を飲む。
ふたたび川に水が流れるようになり、
町に行くと、人びとは以前と
ほとんど変わらなかったが、
師の警告や水の干上がったことを
まったく覚えていなかった。
そして、男は自分が狂っていると
思われていることに気づく。
人びとは男に対して哀れみや
敵意しか示さず、
その話をまともには聞かなかった。
男ははじめ新しい水を
飲もうとはしなかったが、
みんなと違うやり方で暮らしたり、
考えたり、行動することに
耐えられなくなり、
ついにある日新しい水を飲む。
するとその男は他の人と同じく、
貯めていた水のことを
すっかり忘れる。
仲間たちからは
狂気から奇跡的に回復した男と
呼ばれた。

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