5月

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観の目と見の目

僕が幼稚園に通っていた頃、母が不思議なことを言いだした。
道路を渡るとき、こんな話をしてくれた。
「ようちゃん、横断歩道を渡るときどうする?」
「右見て、左見て、もう一度右見てから渡る」
「そうね、そう教わったよね。でもね、ようちゃんはこうしてご覧なさい。まず横断歩道の前に立ったら耳を澄ますの。そしたらまわりで走っている車は一度に全部わかる。それで左右を見るのはその確認。それから渡りなさい」
以来そうして渡った。
あとで気づくのだが、そうしていると横断歩道を渡るとき以外にも気配に敏感になる。
大人になって宮本武蔵の『五輪書』を読んだ。
母が言ってたことを宮本武蔵が別の言葉で書いていた。

目の付けやうは、大きに広く付くる目也。観見(かんけん)二つの事、観の目つよく、見の目よはく、遠き所を近く見、ちかき所を遠く見る事、兵法の専也。敵の太刀をしり、聊(いささ)かも敵の太刀を見ずという事、兵法の大事なり。

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