3月

6

トイレットペーパー1200個

毎週おいしい食材を届けてくれるお兄さんがやってきて「すみません」という。
どうしたの?と聞くと、「今日のトイレットペーパーは届けられましたけど、来週からもしかしたら届けられないかもしれません」。
「おや、あの騒ぎで?」
「そうなんです、人によっては100組とかの注文もあるんです」
そこのトイレットペーパーは12個一組。
ということは一度に1200個もトイレットペーパを注文するのか。
「大変ですね。使い切るのに何年かかるんだろう?」
お兄さんは謝りながら笑うしかない。

3月

6

食卓のゴマ

数年前からゴマのサプリのコマーシャルをよく見る。
それを見るたびに「ゴマ、最近食べてないかも」と思っていた。
半年くらい前から食卓にゴマを置くようになった。
ふりかけ用のガラスの容器にゴマを入れ、食べたいときにサッとご飯にかける。
きっと健康にもいいだろう。
ゴマのサプリのコマーシャルのおかげ。

3月

4

ジェントル・レイン

朝、相方が電話で誰かと話していた。
「今日の雨はジェントル・レインね」
それを聞いてキュンとする。
大学生の頃、僕はジャズピアノを習っていた。
「枯葉」の次に習ったのが「ジェントル・レイン」。
アストラッド・ジルベルトの歌を聴いたのはそのあとだった。
英語の歌詞がとても粋だった。

私たちふたり、互いにこの世でひとりぼっち。
やさしい雨の中、一緒に歩いてよ。
心配しないで、私はあなたの腕を抱え、ちょっとのあいだあなたの恋人になる。
あなたの涙が私の頬を伝うのを感じる。
やさしい雨の中。
おいで愛しい人、私を守って、ぬくぬくさせて、この悲しくてやさしい雨の中で。

3月

4

普通の桜餅

相方が桜餅を買ってきた。
透明なパッケージの中身は三つあった。
二種類の桜餅と草餅。
相方は「道明寺と普通の桜餅と草餅買ってきた」と言った。
そう、普通の。
僕も幼い頃から桜餅といえば普通の桜餅だった。
ときどき形が違う桜餅があり、なんで二種類の桜餅があるのか謎だった。
あるとき、形が違う桜餅は関西のものという認識になり、いつの間にかそれは道明寺という名だと知る。
それで、普通の桜餅は「普通の桜餅」になった。
この文を書くのにネット検索した。
普通の桜餅は「長明寺」という名前で、江戸時代享保二年(1717年)に向島の長明寺の門前で発売されたそうだ。
いまでもその発祥の店「山本や」が向島の長明寺前にあるとのこと。
自分にとって馴染みのあるものは「普通」になる。
いつか「山本や」の普通の桜餅を食べてみたい。
かつては調べようのなかった「普通の桜餅」の謎。
もちろん知る人ぞ知るということだったのだろう。
グーグルマップでお店の場所を調べたら、すぐ近くに言問団子の発祥店があり、お菓子を味わうたびに行こうかと思う。

3月

2

あんぱんの話

近所にあるパン屋さん「アンジェリーナ」のあんぱんには、桜の塩漬けが載せてある。
相方はひとつしかないあんぱんをふたつに割って、両手に持ち、「どっちがいい?」と聞く。
僕から見て左側のあんぱんが不自然に揺れている。
左を選べということか?
そこで反対を選ぶ。
「じゃあ右」
「えっ? こっち?」と言って、僕から見て右を振る。
「そう」
「えーっ」と不満げな顔をして、お皿に右のあんぱんを置く。
そして、そこに乗っていた桜の塩漬けを二つにちぎって分けた。
相方は桜の塩漬けが好きなのだ。
「黙ってそっちから見て右側を出せばいいじゃないか」
「やだ」
「なんで?」
「こういうやりとりが面白いから」

3月

1

テレワーク

相方がテレワークを始めた。
ダイニングでパチパチとキーボードを叩いている。
コーヒーなど淹れにいくと「飲む?」と聞いて一緒に淹れてあげる。
普段とは違う生活になった人が多いだろう。
飲食店は集客が心配だと思う。
アート関係ではイベントが中止になりお手上げの人もいるだろう。
こんなときこそいままでにない楽しみを見つけるべき。
僕は何かの参考になるかと思い『デカメロン』を読み出した。
出だしはペストの流行から始まる。
死に直面した10人の男女が、それまでの常識から逸脱して語り合う生の現実。
僕たちもなにがしかの覚悟が必要かも。
願わくば、ここしばらくの窮屈な感覚を吹き飛ばすような何かをしたい。