Search Results for: 匂い

4月

12

バリ島のオードトワレ

昔、バリ島のスーパーに行くと、有名なオードトワレが安い価格で売られていた。
匂いを嗅ぐと、本物とは微妙に異なる気がした。
国ごとに価格を変えて売っているのか、それとも偽物なのかよくわからなかった。
いまでもネットで安い価格でオードトワレが売られていると、あれかな? と思う。
実際のところはよくわからないけど。
そういうことを思い出すと、妙に懐かしい。

2月

3

穴を掘るのが好きだった幼い頃。
土はいろんな匂いがした。
植っている草の根の香り、苦そうな香り、赤土の香り。
ヌースフィアの概念を生み出したヴェルナツキイもシャルダンも、土や地層の研究者だった。
土には生命の歴史が埋まっている。

9月

23

甘える象

二十数年前、少女漫画原作の取材で、ケニア・ツァボ国立公園内にあったデイビッド・シェルドリック・ワイルドライフトラストに行った。
そこでは孤児の象を育てて、大人になったら自然に帰すという、とても難しいことをしていた。
どうやってそれを実現するのか詳しい話を聞いた。
奇跡的な話がたくさんあってとても感動した。
アジョクという象が近づいてきて僕に向かって鼻を伸ばした。
するとそこのリーダー、ダフニー・シェルドリックさんが「鼻に息を吹きかけて」という。
言われたとおりにした。
すると「その象は一生あなたのことを忘れない」という。
本当かな?と思ったが、あとでそれが真実であることがわかる。
アジョクは僕の息の匂いを嗅いだあと、地面に寝転がってしまった。
急に寝転がるから僕は驚いた。
「どうしたんですか?」
「この子はあなたに甘えているようですよ。おなかの上に寝転がってみたらいかがですか?」
残念ながら僕はここで尻込みをしてしまった。
だって僕の何倍もあるんだよ。
正直言って、怖かった。
でもいま思うと、もったいなかった。
象と愛の交歓したかったな。w

8月

10

永井博のイラスト

大瀧詠一のアルバム表紙などを手がけた永井博のイラスト。
究極の簡素化。
にもかかわらず匂いや温度を感じる。
色がたくさんありそうなところの色数が絞られている。
ベタ塗りのように見えて、ほのかなグラデーションがある。

2月

23

古本の整理

古い本を売ろうと思う。
そのための整理をする。
どの本にも何時間かは一緒に過ごした思い出がある。
たいてい「この本を読んだときにはこんなことがあった」というのを覚えている。
しかし、細かい内容までは覚えていない。
にも関わらず何か文章を書いているとき、「あの本のあのあたりを読んでみようかな」とか思う。
するとそこに参考になることとか、書きたいことの例になるような話が書いてあったりする。
それははっきりと覚えているわけではない。
匂いのように立ちのぼってくるもの。

12月

30

サバの味噌煮

ひさしぶりにサバの味噌煮を食べた。
懐かしい。
母がよく作ってくれた。
でも、幼い僕はあまりおいしいとは思わなかった。
サバの匂いが嫌だった。
あれから何年経っただろう。
いまではとてもおいしく感じられる。
なぜだろう?
味覚が大人になったからか、母に教育されておいしくなったからか、本当のところはよくわからないけど、母に「おいしい」と言えばよかった。

12月

17

朝日を見つめる

地平線がうっすらと明るくなり、次第に赤みを帯びて、夜が明け始める。
濃紺と紅蓮の境目が次第に上がっていき、濃紺が青に近づき、紅蓮の底から黄色が滲み出し、ついには太陽が顔を覗かせる。
目に飛び込んでくる橙の光は、水晶体を通り抜け、中心窩の網膜を刺激して、わずかな熱をもたらす。
網膜の刺激に視神経は反応し、その震えは脳に伝えられる。
皮膚に与えられた太陽光の刺激や、太陽に照らされて立ち上る微かな匂いや、明るくなったために軋む建物の幽かな音や、木々が喜ぶ歓声も脳に届き、朝日の視覚とミキシングされる。
「朝日だ」のひと言ではとても足りない。

9月

29

毒を含む

純粋な香料の香りを嗅いだことがあるかね?
たいていはないだろう。
なぜなら、多くはひどい匂いだから。
では、なぜそれをいい香りだと思うのか?
香水にするときにはそれを微量加えるからさ。
わずかな香りに人は魅かれる。
元は大変な悪臭なのに。
もし多くの人に読んでもらいたいと思う文章を書くときは、ほんのわずかな毒を加えたまえ。
内緒だよ。

10月

17

あなたを選んでくれるもの

友人を偲ぶ会の準備をしていて、些細な問題が起きた。
同時に、相談事があってどう解決していいかわからない。
書かなければならない原稿が締切を過ぎてしまった。
煮詰まった。
何をどうすればいいのかよくわからない。
そこで、逃避をした。
ミランダ・ジュライの『あなたを選んでくれるもの』を読んだ。
少し前に買って、部屋の片隅に積んでおいた本の一冊。
なぜこの本を選んだのかはわからない。
これが良さそうという匂いがした。
昼食のあと、喫茶店で読んだ。
三時間ほどで読み切った。
何に引き込まれたのか、明確には書けない。
だけどとても引き込まれた。
この本一冊が逃避の話だった。
映画の脚本を書いていたミランダは、もうほぼ完成という段階で逃避をする。
はじめはネットをサーフィンして時間をつぶすが、あるときポストに入っていたフリーペーパーを読みだす。
そこには「こんなものを売ります」という広告が出ている。
そういう広告を出している人に連絡を付け、会ってインタビューを始める。
映画のネタ集めと称しての逃避。
ミランダが想像していなかったいろんな人と出会う。
何人かに会い、これでインタビューはもうやめようと思って会った最後の人。
その人に執筆していた映画へ出演してもらうことになる。
訳もわからず感動した。
喫茶店でウルウルするのを我慢した。
読み終わってウチに帰ると、問題と思っていたことはたいしたものではなくなっていた。

2月

26

憂国

三島由紀夫の小説はいままでに何冊か読んで来たが、『憂国』は心に刺さる作品だ。
高校生から大学生の頃に『仮面の告白』『愛の渇き』『美徳のよろめき』『午後の曳航』『音楽』などを読んだが、学生の僕にはあまりピンと来なかった。
数年前に『美しい星』を読んで、三島の作品としてははじめて面白いと思った。
若い頃、『憂国』だけは読みたくなかった。
危険な小説に思えた。
いまが読むべきときだと思い読んだ。
面白いというよりは、凄いという感じだ。
生々しい。
いたるところで匂いを感じた。
同じ本に『英霊の聲』と『十日の菊』が入っているが、『英霊の聲』も凄かった。
『十日の菊』は少し休んでから読もうと思う。
現代ではあまり使われない言葉が文章の密度を高くしていた。
特に『憂国』では軍隊にいるというのは、こういう人とのつながりかたになるんだろうなと思う。
戦って仲間を殺すくらいなら、切腹して果てるという連帯感。
僕にはとてもできない。
というか、そのように追いつめられた状況をいまの世の中に生み出すべきではないと思う。
三島が切腹した一週間ほどあとで、市ヶ谷駐屯地前を家族みんなが乗った車で通った。
父がそのとき何か言ったが、あまりにも強烈だったので「強烈であった」ということ以外忘れてしまった。
それから何年もあと、フォーカスの創刊号に三島の頭が掲載されていた。
この話のどこが気持ちいいのかと聞かれそうだが、『憂国』が見事だった。

1月

11

サーキットを走る

かつてサーキットを走ったことがある。
いつもは速度制限があり、安全運転をするのが当然とされているが、いざどれだけ速く走ってもいいとなると、速度の上限は恐怖心との戦いになる。
速度を超過するとカーブが曲がれない。
タイヤをキュルキュルと軋ませながら、タイヤのこげる匂いを嗅ぎながら走る。

6月

8

夏のきゅうり丼

きゅうり丼ご存じですか?
まだ食べたことがないなら
ぜひ試してみてください。
作り方は簡単です。
きゅうりを一本すりおろす。
それをご飯の上に載せて
醤油をチロッとたらすだけ。
はじめて雑誌で読んだとき、
こんなものが美味しいのかと
思ったけど、なんか気になったので
自分で作ってみた。
するとびっくり。
あんなに簡単なのに美味しいのです。
普通の丼物と同じようにしてはいけません。
いろんな美味しいものを食べたあと
締めとして、ご飯茶碗一杯に
一本のきゅうりを
すりおろすくらいが
丁度いい塩梅です。
一緒にあるのは滑茸の味噌汁と
香の物があると最高。
きゅうりの香りって
どんなものかわかります?
かつて全然
気にしていなかったのですが
調香師の知り合いに香料を出されて
「これなんの匂いかわかる」
と聞かれ、
なんの匂いかは
わからなかったのですが
ふと幼い頃、父親が友人を家に招き、
そのテーブルの上に
きゅうりとわかめの酢の物が
置かれていたことを思い出し、
そのことを告げたら、
「そうなんだよ、
 これはきゅうりの香りだ」
と言われて以来、きゅうりの匂いが
わかるようになりました。
そのさっぱりとした香りが
きゅうり丼にはあるのです。
しかも、きゅうりは抗酸化作用の王様。
中国人が山登りに水を飲む変わりに
きゅうりを食べるのは
とても合理的なことなんです。
というわけで、
きゅうりが美味しくなってきて
みずみずしいきゅうりが手に入ったら
ぜひやってみてください。
きゅうりをすりおろすと
でてくる水分も
いっしょにかけてください。
しゃくしゃくと涼しげな
ご飯になります。

3月

23

焼空豆

春になってさやごと焼かれる
焼空豆がおいしい。
幼い頃はあの匂いが嫌いだったが、
最近はあの匂いが懐かしく感じる。
なぜ幼い頃に嫌いだったものが
大人になると食べたくなるのか
とても不思議。
焼け焦げたさやをむき、
ちょっとヌルヌルしたさやの中から
つるっとした空豆を取り出す。
モヒカンのような黒い部分を指で取り、
中から柔らかい空豆の中身を
ツルッと押し出し食べる。