8月

22

イルカに教わった泳ぎ方

プールで泳ぐようになって八年ほどたつ。
はじめのうちは長く泳ぐのが大変だったけど、
最近は慣れた。
ゆっくりと効率的に泳ぐとき、
何が役に立ったかというと
イルカの尾びれの動かし方だ。
イルカはゆっくり泳ぐとき、
放物線を描いて落ちる球のように
尾びれがリズミカルに
遅くなったり速くなったりする。
きっとあれを真似したら
楽に泳げるのではないかと考えて
そうしてみた。
するととても楽に泳げる。
高校生の頃、指揮をするのに
似たことをした。
それもきっと役に立っている。

7月

5

水に心のことを教わる

泳ぐようになってもうすぐ9年。
水に心のことを教わった。
どうやって教わったのかというと
その入口はこういう問いだった。
「何を考えたら楽に泳げるのか?」
はじめのうちはポジティブなことを
考えるようにした。
たとえば、
「いくら掻いても進まない」
と思ったら、
「掻いた分だけ進む」
と考える。
だけどこれはあまりうまくいかない。
実際には葛藤が生まれてつらくなる。
ではどうすればいいのか?
次にしたのは水を感じること。
手で掻くと掻いた水が渦になったり
圧力のある層になったりする。
それを感じてみるのだ。
はじめは半ば空想だった。
「こう掻けばここに層ができるはず」
という感じ。
ところがしばらくすると
実際に感じるようになってきた。
肌がわずかな圧力の変化を
実は感じていたのだ。
それを発見するとそれを利用する。
クロールをしていて
手で掻くと、
そこに圧力のある層ができ、
それが泳いでいる僕から見ると
後ろの方へ流れて行く。
その層が足から離れるときに
そこをキックすると、
その層を感じずに
ただキックしたときより
わずかに進みがよくなる。
そういう圧力の層を見つけては
その層が
うまく利用されているかどうかを
感じて行く。
圧力の層は
実際に存在するのかどうか
本当はわからない。
僕が幻影を
感じているだけかもしれない。
でも、実際に速く楽に
泳げるようになった。
きっとだからあるのだろう。
でもそれは、
「きっとある」と前提しない限り
見つけられなかった。
あると信じることで存在し始めた。

5月

15

2000m泳ぐ

2000m泳ぐようになって5,6年経つ。
以前は一生懸命泳いでいたが、
いまはコツをつかんだのか
あまり苦しくない。
歩くようにして2000m泳ぐ。
だからあまり速くは泳がない。
のんびりと、水の流れを感じながら
どれだけ効率的に泳げるかを
考えながら泳ぐ。
泳ぐことが快適なので
また泳ぎに行く。
こういう循環を作るのが難しい。

3月

31

泳ぐことがさらに楽になる

定期的に泳いでいるが
だんだんと楽に泳げるようになり、
長く泳げるようになり、
速くも泳げるようになったが、
最近また何かが変わった。
あまり苦労しないでスピードが出る。
長く泳ぐことで水に添うことを
覚えたようだ。
たとえば、足で一生懸命掻いても
水を上下に動かしてばかりで
ちっとも進まないという状態が
下手な頃にはあった。
いまは水を後ろに
蹴ることを覚えた。
蹴るというよりは
足の周りの水を
移動させるという感触。
しかもできるだけ大きな堆積の水を
移動させる。
以前からそう考えてはいたけど、
最近水がきちんと
移動してくれるようになった。
今回もなぜそれが可能になったのかは
よくわかっていない。
水が移動してくれるときの
感触が楽しい。

2月

12

一人で泳ぐ

いつも泳いでいるプール。
いつも誰かが泳いでいる。
たまたま誰もいなくなると
急に水面がきれいになる。
誰かか泳いでいると、
必ず水面に小さな波が立つが、
誰もいないとその水面が
鏡のように静かになる。
僕が動いてはじめて揺れる。
鏡のような水面を
泳いで行くのが気持ちいい。
実際にその様を
見られるわけではないけど、
泳ぎ始めるとき、
静かな世界に入って行くことになる。
泳ぎ終わって振り返ると
僕の泳いだ航跡と
広がりつつある波がある。