『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を読んで

村上春樹の新作『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を読んだ。

今回の小説はいきなり主題の提示で始まる。あまりにもすぐに本題が始まるので「どうしたことか?」と思ったのだが、しばらく読むとその理由が読み取れた。『1Q84』で『シンフォニエッタ』を使ったように、この小説ではリスト作曲の『巡礼の年 第一年〈スイス〉』から「ル・マル・デュ・ペイ」という曲が主題として使われているが、その曲の形式を小説で追っているのだ。

こちらに書いたが、村上春樹の小説はたいてい、シンフォニエッタのようにすべての音があってはじめてその素晴らしさがわかるような、物語の複雑な絡まり方が面白さを生み出しているのだが、今回はその面白さは比較的単純に表現されている。だから、今回の作品に限って言えば、ストーリーを手短にまとめても面白さが伝えられるような物語になっている。

『1Q84』という物語は、主人公の行動だけをまとめただけでは、いったい何が面白いのかよくわからない。主題に絡む様々な細かな話が全体の面白さを生み出していた。それは『シンフォニエッタ』という作品にとても似ていた。『シンフォニエッタ』はそのメロディーだけ抽出して単音で演奏しても、何がどういい曲なのかよくわからない。単純でかつ面白味のないメロディーだ。ところが、メロディーに付随する音がすべて演奏されたとき、その音楽の豊饒さが見えてくる。それは『1Q84』の面白さに呼応していた。

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中国に如何に向き合うか〜パネリストプレゼン

3月26日におこなわれた国家ビジョン研究会主催シンポジウム『中国と如何に向き合うか』のパネリストプレゼンテーションの概要を記します。前項と同様メモによる文章なので、細かいニュアンスなどには間違いがあるかもしれません。さらに、これらはかなり省略されています。

 

森本敏氏(前防衛大臣・拓殖大学教授)

中国は国際法を恣意的な解釈で行動してくる。このような国家に対してどのように接するのか対策を講じなければならない。特に中国は法制度がはっきりと確立してないところに介入してくることが顕著。このような国家をどう従わせるのか。たとえば海洋・宇宙・サイバー空間。背景にはもちろん共産党の意思がある。

なぜ最近になって中国がアプローチしてきたのかというと、資源獲得のためという人が多いがそれだけではないと考えている。背景にはあの海域を中国の領海にし、ゆくゆくは沖縄を琉球諸島と呼んでいることからもわかるように沖縄をも領土にしようとしている目論見が透けて見える。そのために尖閣諸島に対して様々な施策を施してくることで、日本の弱点がどこにあるかを探っているのだと思われる。どのような挑発をすればどこまでの対応をするのかを確認している。だから最悪のシナリオを考えて行動していかなければならない。

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中国に如何に向き合うか〜極東アジア地政学の中の日本

国家ビジョン研究会のシンポジウム『中国に如何に向き合うか』に参加してきました。とても刺激的な話が聞けたのでここにご報告します。いつものように会場で取ったメモを頼りに再現しますのでニュアンスなど、細かい部分で間違いがあるかもしれませんが、ご寛恕のほどよろしくお願いします。

基調講演は拓殖大学総長兼学長の渡辺利男氏が「極東アジア地政学の中の日本」というタイトルでお話しになりました。

極東アジア地政学の中の日本

中国は最近とてもシビアな膨張政策を取り始めた。それに対して理不尽だという人がときどきいますが、中国に対して理不尽と言ってしまっては私たちの負けになります。もしそう言ってしまうと戦略的に何もなし得なくなるからです。中国に対してはこう見るのがいいと思います。「遅れてきた帝国主義国家」日本の古い自画像を見ているような気がします。かつてはどこの国も帝国主義国家でした。それを中国はいまやっているのです。だから最近の中国の覇権獲得の動きは当然だと思うべきなのです。

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