仏教と科学の共鳴〜清水博氏と田坂広志氏の対話 その1

「地球の未来への対話」—仏教と科学の共鳴—プレイベント第一回を聞いてきた。

このイベントは11月1日におこなわれるダライ・ラマとの対話のプレイベント。仏教に関しても科学に関しても、とても専門的な話題にまで踏み込む予定なので、前もってある程度知識を持ってないと、一般の方はなかなかきちんと話が理解できないのではないかと企画されたイベントだ。縁あってささやかなお手伝いをさせてもらったので聞きに行った。

田坂広志氏に関しては1993年に出版された『生命論パラダイムの時代』という本のトップに原稿を書いていたので知っていた。イリヤ・プリゴジン、浅田彰、立花隆、西垣通、西山賢一、松井孝典という、錚々たる面々が出席したシンポジウムのまとめをやっていたのが、当時日本総合研究所の主席研究員だった田坂氏だった。そのときはじめて名前を聞いたが、それからしばらくして、あちこちで聞くようになった。いまではソフィア・バンクという組織を作り、社会起業家の育成に努めている。

清水博氏については、10年ちょっと前に「生命知としての場の論理」という本を読んでいたので知っていた。科学者にはあまりみられない論理の飛躍があって面白い本だった。「場」というとらえにくい概念をいろいろと説明していたと記憶するが、残念ながら僕はあまりつかみきれなかった。確か武道の話とつながっていくのだが、いま本が見つからないのできちんと説明できない。

今回の清水氏の話の中に「二重生命」という概念が登場した。たとえば人間は「人間」という個体であり、それを組織しているひとつひとつの細胞の寄り集まりでもある。ひとつひとつの細胞にも寿命があり、生まれて死ぬのだが、その生死と個体としての人間の生死は別のものだ。つまり、大きな人間個体としての生死と、それを構成している細胞の生死があり、それぞれがゆるやかにつながりながら別の動きをしている。この状態を「二重生命」と清水氏は言った。「ホロン」に似ているなと思った。「ホロン」は生命に限らず、社会などの組織形態も表現するが、「二重生命」は生命現象に限った概念なのだろうか? 疑問が残った。いつかそのことについて書いてある本を読んでみたい。そのことについて詳しく書いてある本をご存じの方はぜひ教えてください。

その「二重生命」という概念が、これからのいろいろな問題を解く鍵になるだろうと思われる。この言葉は「地球についてどう考えられますか?」という質問から出てきた解答に含まれていた。清水氏はこんなことを言った。

「地球は私の居場所です。居場所にいるものは居場所となっているものを内側から見るもの。からだは細胞の居場所。細胞はからだを内側からしか見ることがない。同様に私は地球を内側からしか見られない。これを二重生命という。細胞と個人は別のもの。私が地球を考えると言うことは、細胞が私のことを考えるようなこと。たとえば移植の問題。脳死と個人の死は一緒ではない。脳が死んだら個人も死ぬというのは、あたかも個人が死んだら地球が死ぬようなこと。それはあり得ない。このように二重生命の視点で生命や地球のことを考えることがとても大切」

いきなり深い話に入ったので驚いた。この文章は僕が話を聞きながら書いたメモに基づいて書いているが、清水氏の話の前に田坂氏が同じ問いにこう答えていた。

「ジェームズ・ラブロックや龍村仁と対話したときにガイヤという概念について話したが、ガイヤは巨大な生命体というが、多くの科学者は生殖しないからとガイヤを生命体としてとらえることに疑問を抱いている。しかし、生命の定義からガイヤをくくっても仕方ない気がする。それよりも、宇宙とは何か?という問いに答える必要があるのではないか?」

田坂氏の話はここで司会者に切られるのだが、ここで切られて清水氏の話に移ることで、入れ子構造的な宇宙を思わせられることになった。この対話については後日詳しく本が出るらしいから、そちらを読むのがいいと思うが、また深い話がいろいろとあったあとで、清水氏が華厳経のことを語り出す。清水氏によれば「華厳五経章」の「りくそう縁起」(りくそうという字がどのようなものかわかりませんでした)にこのような話が登場するとのこと。(華厳五経章の件、清水先生に直接確かめました。華厳宗の賢首菩薩法蔵の華厳五教章の「六相円融義」の縁起論だそうです。間違いはこのまま残します。Blogとしてそのほうが面白いでしょう。2009.11.05)

「家はたくさんの部品が組み合わさってできたもの。もし屋根がなかったら、柱がなかったら、家にはならない。つまり、部品がひとつでもないと家にはならない。このとき、部品のない家の柱は柱の機能を果たさず、屋根も家の屋根として機能しない。つまり、すべてがそろった家が存在することで、はじめてその部品も家の部品としての機能を果たす」

この状態を事事無碍と清水氏は言った。事事無碍があり、理事無碍があり、全体があって部分が現れる。このことについてあまり詳しく清水氏は言わなかったが、事事無碍はあらゆるできごとが完全な調和の上に成り立っていることを言い、理事無碍は原理と出来事がうまく調和していることと考えるといい。つまり二重生命を考えるのに、どうしても視点がふたつ必要にもかかわらず、できあがっている状態は完全な状態なのだ。ふたつの視点から考えるとうまく行かないような議論になる可能性を持つにもかかわらず、起きている現実は調和している状態だ。

これを地球に置き換えると、地球上に生きている僕たちと、地球自体は別のものである。しかし、僕たちも地球の細胞であり、その一部で、僕たちが調和していることで地球も調和すると言うことだろう。しかし、僕たちが見ることのできる調和と、地球から見えるであろう調和が果たして同じものかどうかは別問題だ。この人間の視点を超えた視点をどうやって持つかが、これから大切なことになるのかもしれない。しかし、そんな視点はどうやって持つのだろう? このとき、かつて日本語訳された華厳経を読んだあとで感じたことを当てはめるとなんとなく理解できた気になった。

菩薩は衆生を助けるために働いて働いて働いて、いつか如来になる。如来になるとき、それは「あるがままでいい」と気づくとき。しかし、それは「あるがままでいい」とただ思うだけでは如来にはなれない。菩薩が働きに働いた働きの中で生み出された感覚や気づきが「あるがままでいい」ことを形作るから。凡夫がただ「あるがままでいい」と思っても、それは部品のない家と同じだから。しかし、一方で「如来になる」と思うことが菩薩を如来に引き上げる。短い言葉で説明してもわかりにくいと思う。言葉という流れの中で理解できないと。もう一度華厳経を読み直してみたくなった。

ほかにもたくさん話はあって書きたいのだが、全部書くと一冊の本になるだろう。いつかほかの話題についてもここに書いてみたい。

こうやって、僕は今回のプレイベントで本会議に行くまでの宿題をもらった。本会議に参加する人はぜひ次の第二回のプレイベントに参加するといいでしょう。きっとあなたに合った宿題が提示されることと思います。

その2はこちら。

◆第二回  地球と環境
10月14日(水) 18時45分〜20時45 (開場時間 18時20分〜)
 ・竹村 真一(文化人類学者、京都造形芸術大学教授、Earth Literacy Program代表)
 ・星野 克美(文明哲学者、多摩大学・大学院教授、日本技術者連盟会長、グローバル・マネジメント・アカデミー会長)
 ・企画・モデレーター:尾中 謙文(青山プランニングアーツ代表、認知科学者)

◆場所:東京ウィメンズプラザ ホール
 東京都渋谷区神宮前5-53-67 B1階
 ・表参道駅(東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線) 徒歩7分
 ・渋谷駅(JR山手線・東急東横線・京王井の頭線) 徒歩12分
 http://www.tokyo-womens-plaza.metro.tokyo.jp/contents/map.html

◆参加費:3,000円(自由席/事前振込み)

◆振込先:三菱東京UFJ銀行 青山支店 普通 0030986
(地球の未来への対話実行委員会)

◆定員:240名(先着順)

◆登壇者プロフィール

【竹村 真一】
1959年生まれ。
京都造形芸術大学教授。Earth Literacy Program代表。
東京大学大学院文化人類学博士課程修了。
地球時代の人間学を考究しつつ、ITを活用した独自な地球環境問題への取組みを進める。
Sensorium(97年アルス・エレクトロ二カ・グランプリ受賞)、デジタル地球儀「触れる地球」(05年グッドデザイン賞・金賞)や「100万人のキャンドルナイト」「aqua scape」など、さまざまなプロジェクトを推進。環境セミナー「地球大学」主宰。
07年「water」展ではコンセプト・スーパーバイザーとして企画制作に携わる。
08年7月の北海道・洞爺湖サミットでは、 国際メディアセンター(IMC)内の環境ショーケースにおける「地球茶室」の総合企画・プロデュースを担当。
「地球の目線」PHP新書、新著「環東京湾構想」(共著)朝日新聞出版、など著書多数。
ラジオ「GLOBAL SENSOR」放送中(J-WAVE,偶数月の最終日曜25時〜)。
竹村真一プロジェクトサイト: http://www.elp.or.jp/

【星野 克美】
1940年名古屋市生まれ、名古屋大学経済学部卒業
研究履歴:筑波大学社会工学系専任講師・助教授を経て、多摩大学経営情報学部・大学院経営情報学研究科教授
専攻:文明哲学、未来文明論、地球環境文明論、文化記号論、認知科学記号論(Semiotic Marketing世界的パイオニア)
学会:比較文明学会会員
主著:『地球環境文明論』、『社会変動の理論と計測』、『消費人類学』、『流行予知科学』、‘Semiotic Marketing and Product Conceptualization’など多数
NPO:日本技術者連盟会長、グローバルマネジメントアカデミー会長、日本プライバシー認証機構会長
創作:形而上詩、環境文学

※プレイベントには、ダライ・ラマ法王は出演されません。

 11月1日の<「地球の未来」への対話>は、ダライ・ラマ法王と、上記4名の先生(田坂広志氏、 清水博氏、 竹村真一氏、星野克美氏)の対話イベントです。

◆主催:「地球の未来」への対話 実行委員会(株式会社青山プランニングアーツ内)

◆協力:ダライ・ラマ法王日本代表部事務所(チベットハウス)

◆プレイベントお問い合わせ先:

「地球の未来」への対話 実行委員会

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「地球の未来」への対話 実行委員会
(株式会社青山プランニングアーツ内)
TEL  03‐6427-4021(平日10:00-17:00)

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