『微細藻類が東北を救う〜田んぼからバイオ燃料』講演内容の要約

2011.9.8におこなわれた未来市場創造会×kyobashi TORSO 第1回 『微細藻類が東北を救う 〜 田んぼからバイオ燃料』の講演内容の要約を、未来市場創造会のBlogから転載しました。未来市場創造会Blogには、このときの映像もあります。こちら。

原芳道氏略歴
私(原芳道)は総合商社に入社してオーストラリアに10年間駐在、国際的なジョイントベンチャーを5社ほど立ち上げた。そのひとつが世界で一番大きいと言われるマウントニューマンという鉄鉱山。ほかにはテキサダ工業塩事業、アルウエスト・ボーキサイト、ワースリーアルミナ精錬などの事業を立ち上げた。その後南アフリカに行き、そこでもいくつかの会社を立ち上げた。10年ほど前に独立して、そのひとつの事業として、今日説明するプロジェクトがある。

スメーブジャパンは何をする会社か
スメーブジャパンでは、石巻で微細藻類ナンノクロロプシスのプラントを作り、養殖することによってまずはサプリメントの原料や、飼料などにすることで商売を成立させる。いっぽうで、大量培養によってできたナンノクロロプシスから、EPAを抽出する新たな技術を開発する。これによってナンノクロロプシスの価値が上がり、生産利益が高くなることが予想される。さらに、ナンノクロロプシスからバイオ燃料を大量に安く抽出する技術をも開発する予定である。これが可能になると、小規模のバイオ燃料製作プラントが廉価で可能になると考えられる。

提携会社であるイスラエルのシームビオテック社では、すでに火力発電所から排出される炭酸ガスを利用して微細藻類を培養し、バイオエタノール、バイオディーゼル、サプリメントを作る技術を持っている。このプラントでは普通の人が培養できる10倍の濃度で微細藻類を育てることができる。ここではNASAの開発した技術を組み合わせている。どのような技術かというと、微細藻類の光合成は水面から3センチまでのところで効率よく起こるため、そこでの光合成が効率的に起こるようにプールの深さと、その際の水流に特別の工夫を施すというもの。これらの技術に加え、商業的競争力をつけるために新たな技術を東北大と石巻専修大との協力を得て開発している。

微細藻類について
藻はもっとも古い生命だと言われている。彼らが存在したおかげで、地球上に酸素ができ、生命進化の下地が作られた。
藻はどこにでもある。私たちに一番親しみがあるものは海苔だろう。あれは紅藻に分類される。また、ワカメや昆布も藻類。しかし、今日話題とする藻類は微細藻類。有名なところではクロレラ、スピルリナ、ドナリエラなどがある。最近着目されているのがユーグレナ、オーランチオキトリウム、ボトリオコッカスなど。

なぜいま微細藻類からバイオ燃料を作ろうとしているのか。
70年代にオイルショックがあった。そのおかげで石油の値が上がり、アメリカでは中東に依存しないエネルギー体制を作るべきといろいろと研究がなされた。日本でも一時は活発だったが、オイルショックが終わると次第に熱が冷め、研究も下火となる。

アメリカではトウモロコシ農家に助成金を与え、トウモロコシからバイオ燃料を抽出できるように研究を続け、その結果、現在では10%以上の車がバイオ燃料を使っている。しかし、このバイオ燃料にはひとつ問題があった。原料が食料であるために、食料の価格が上がってしまったのだ。しかも、補助金が入るからと多くの農家が転作をはじめ、食糧問題にまで発展した。

いっぽう藻は、食料としてはあまり認知されてないので、いくらバイオ燃料を取っても食糧問題や、価格沸騰は起きない。また、単位面積あたりの油収量が他のバイオ燃料と較べて格段に高いのも理由。トウモロコシの200倍と言われている。しかも、ある程度の土地があれば、簡易プールで育てられるから、太陽光線と水さえあれば育てることができる。しかし、すべての微細藻類でそれができるわけではない。オイルを作り出す微細藻類と、そうでない微細藻類がある。

オイル産生藻類として、油を比較的多く作るのはボトリオコッカスとオーランチオキトリウム(別名シゾキトリウム)、そしてナンノクロロプシス。私たちはこのうちのナンノクロロプシスを選んだ。ダブリングタイムが短いため効率が高く、冷温下でよく油を作るから。

ナンノクロロプシスはオメガ3脂肪酸であるEPA(エイコサペンタエン酸)をたくさん含んでいる。EPAは青魚に含まれていると言われるが、実はその脂を作っているのはナンノクロロプシスなどの微細藻類。食物連鎖の結果、青魚に貯められているだけなのだ。だからもしナンノクロロプシスからEPAを取り出せるようになると、それは莫大な利益をその会社にもたらすだろう。その証拠に同じくオメガ3脂肪酸であるDHAを世界ではじめて微細藻類から抽出したアメリカの会社マーテックは莫大な利益を上げた。魚から採取すると、汚染のために含まれている重金属を除去しなければならないし、将来的に安定的確保ができるかどうか不安。ナンノクロロプシスからEPAの抽出は、現在超臨界や亜臨界の技術を使っての実験を東北大学にしてもらっている。

今回の震災でバイオ燃料は注目されるようになった。原発の問題がクローズアップされたからだ。政府は2030年までに原子力発電の能力を、電気総供給量の50%にまで持っていこうとしていた。しかし、それが難しくなった。

いっぽう世界では自然エネルギーの流れは次第に大きくなりつつあった。自然エネルギーの研究はアメリカでは1978年から続けられ、アメリカ政府は何億ドルもの助成金を与え、民間からもビル・ゲイツが5億ドル、エクソンモービルが6億ドル、BPが3億ドル入れたという話がよく聞かれた。最近熱心なのは中国。2015年にはアメリカで商業的プラントが立ち上がると予想されている。日本ではそれが2020年になると予想されている。そのための準備が急速に始まったようだ。

微細藻類は大きく分けて三つの分野に貢献できると考えられる。まず一つ目は医療・薬学関係。これはレッド・バイオテクノロジーと呼ばれる分野。ナンノクロロプシスで言えば、EPAの抽出とそのサプリメント化が考えられる。二つ目はホワイト・バイオテクノロジー。これはバイオ燃料の抽出などによる工業化。三つ目はグリーン・バイオテクノロジー。これは二酸化炭素の固定による環境浄化や、食料・飼料として利用することなどが考えられる。このように多岐にわたる応用ができる素材のため、ナンノクロロプシスの養殖は非常に可能性があると考えられる。

このような可能性のある微細藻類について日本人はほとんど何も知らなかった。なぜなら、これらを理解するためには学際的知識が必要だから。海外では博士号を三つくらい持っている人はざらにいる。しかし日本にはあまりいない。そのために微細藻類について横断的に知る人があまりいないため説明がなされてこなかった。微細藻類からバイオ燃料を抽出するためには「ヨコグシエンジニアリング」が必要。多岐にわたる学問に横串を通すように理解する人と、それを支える技術。

たとえば、いままでのソーラーシステムはただ広い土地に太陽バネルを置くだけだった。ところがヨコグシエンジニアリングが機能し始めると様々なアイデアが生まれる。たとえばこのダブルデッカーソーラーシステムはそのひとつ。太陽光発電とナンノクロロプシスの育成を同じ場所で一度におこなう。これが可能になるのはナンノクロロプシスの特性のおかげであり、それを理解した上ででしかこのダブルデッカーは可能にはならない。

日本は先進国になったため大企業の成長は頭打ちになった。日本のインフラ整備はほぼ終わり、高年齢化が進み競争力を養えず、電力と労働力を得にくくなったから。しかし、人脈と行動で状況は打破できる。諦めるのはまだ早い。