ディジュリドゥ

先日、ひさしぶりにディジュリドゥを吹いた。アボリジニに伝わる不思議な笛だ。

基本的には金管楽器のペダルトーンと同じようにして吹く。しかし、吹く唇の位置がちょっと違う。金管楽器は唇の真ん中で吹くが、ドィジュリドゥは唇の端で吹く。このとき、舌を動かすことで口腔内の空間の大きさを意図的に変えることで、音色を変化させる。ア、イ、ウ、エ、オと発音するとき、口の中と唇の形の関係で音が変わる。同様な変化をディジュでは吹きながら音色に加えるのだ。ホーミーで口の形を変えることで倍音を口腔内に響かせるが、同じことを金管楽器のペダルトーンを出しながらやるようなものだ。

さらにディジュには特徴的な奏法が使われる。循環呼吸だ。はじめて聞いたのは中学生の時。オーボエを吹いている先輩がオーボエに循環呼吸という奏法があり、それで吹くといつまでも吹き続けることができると聞いた。当時はそんなことができるのかと信じられなかったが、ドィジュでは二、三時間訓練すればできるようになる。ブイーと吹きながら頬に空気をため、ほんの一瞬頬から空気を吹き出しているあいだに鼻から息を吸うのだ。コツを覚えればさほど難しくない。

それから、ディジュではブィーとペダルトーンのような音を吹きながら、口の形を変えることで倍音を変え、それによってリズムを刻むことができるが、同時にもうひとつ、声帯を震わすことで、つまり声を出すことでディジュの音に声をかぶせることができる。これはアナログシンセサイザーを知っている人ならわかると思うが、オシレーター(発信装置)がふたつあるようなものだ。ひとつはディジュの固有振動数から生まれるペダルトーン、もうひとつが声で生まれる音。この二つの音が干渉を起こして、不思議な音を発生させる。これでもリズムが刻めるので、ディジュではやろうと思えば三種類のリズムを同時に刻めることになる。

ひとつは、ただ吹くことで生まれるリズム。吹いたり止めたりすればリズムが生まれる。ブッ、ブーブ みたいな音だ。

もうひとつは口腔内を変えることで倍音を変化させて刻むリズム。ビーヨーイヨイヨ みたいな音。

そして三つ目は声を出すことによって刻むリズムだ。これは声の高さによって出てくる音が無限にあるので言葉に表現できない。

うまい人はこの三つがそれぞれ独立して刻まれるので、たった一本のディジュで複雑なリズムが刻める。そしてさらに固い木片を持ち、ディジュ自体を叩くことで、もうひとつ別のリズムを刻むこともできる。

この楽器はもちろん聞いても面白いのだが、一番の醍醐味は演奏することにある。三つのリズムを刻むことは考えてやっていてはなかなかできない。それより自分ができる範囲で適当に楽しむのが良い。正確に三つのリズムを刻もうとすることより、適当に複雑なリズムに雰囲気を近づける方がずっとこの楽器らしい音になる。そして、それを続けることで、奏者は次第にマインドトリップを始めるのだ。

リズムが複雑で、しかも循環呼吸をするので、次第に空気が足りなくなり、クラクラしてくる。さらにいろんな音でリズムを刻むので、考える暇がない。音はすべて感覚で操作するようになる。それらに慣れるとハイになってくるのだ。

だからディジュは一度吹き出すとなかなか止められなくなる。あー疲れたと思う頃には一時間くらい経っていたりする。なかなか素晴らしい変性意識発生装置だ。

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