地球交響曲(ガイアシンフォニー)について その1

1993年、京都でグローバル・フォーラムという会議がおこなわれた。
グローバル・フォーラムはそのとき3回目の開催で、1回目が1988年4月にイギリスのオックスフォード大学でおこなわれた。
東京でグローバル・フォーラムの事務局をしていた人と知り合い、その写真を見せてもらった。
ゴルバチョフ、マザーテレサ、ダライラマ法王、カール・セーガンなど、見知った顔が並んでいた。世界中の政治、宗教、文化、科学の代表格といえるような人たちが一堂に会し、地球環境についての話し合いをする機会だという。その企画を実現した人は国連の元職員で松村昭雄さん。そんな会議が当時おこなわれていたということを僕は知らなかったので「こんなすごいことする人に一度会ってみたい」とつい言った。
1989年の夏だったと思う。僕の会社のデスクに電話がかかってた来た。受話器を取ると「松村です」という。
「どちらの松村様でしょうか?」
「グローバル・フォーラムの松村です」といわれて、びっくりした。
「日本にいらっしゃるのですか?」
「いまニューオータニにいます。少々ご相談したいことがありまして、お目にかかることはできますか?」
その晩、ニューオータニで会った。そして、京都でおこなわれるグローバル・フォーラムを手伝ってほしいと言われる。


1993年のその会議で、僕はメディアのとりまとめのような仕事をしていた。
そこで知り合ったボランティアから「いま地球交響曲(ガイアシンフォニー)という面白い映画を京都で上映している」と聞いて見に行った。
その映画館ではじめて龍村仁監督と会った。観客に挨拶をして握手をしていた。僕も握手をしてもらった。
グローバル・フォーラムで話し合われていたことと、地球交響曲で語られていたことがリンクして、新しい時代が来るのかもしれないと思った。
松村さんはグローバル・フォーラムでこんなことを語った。
「私たちはここに21世紀を語るために集いました。コンセプトを語るのではなく、何をするのかについて語るのです。人間の価値観を変え、行動の考え方を変えなければなりません。オックスフォードでの会議はチャレンジでした。イスラム教もユダヤ教もあらゆる宗教がひとつ屋根の下に五日間泊まりました。あのチャレンジがあったからこそ、次のチャレンジができました。1990年のモスクワ会議です。あのソビエトで、宗教そのものがタブー視されていたクレムリンで、今日いらしておりますゴルバチョフ大統領のホストの元に、我々が集まったこと自体が歴史的な、画期的な、タブーを破った瞬間でした。私たちは法律のことを語っているのではないのです。価値の転換について語っています。21世紀に向かって、私たちはまったく新しい時代に直面しているのです。地球の住人であることを自覚しなければなりません」
価値の転換とは何か? それは地球と人間とのルール作りだと言っていた。しかし、それが具体的に何なのかは、まだ曖昧だった気がする。個人がタブーを破るべきだとは言っていたが、どのようなタブーを破ればいいのか、不明確だったように思う。その溝を地球交響曲が埋めてくれた。
人間は生命の霊長、つまりもっともすぐれた存在だというのが常識だった。だから人間は霊長類といわれる。しかし、地球交響曲では少し位相の違うことを言っていた。

あなたの声を
風は、確かに聴いているんです
山だって、耳を澄ましている
花や樹は
あなたが呼びかけていることを
もうとっくに知っています

喜びで、トマトの顔がまっ赤になった
石だって震え始めた
象や鯨たちが、あなたに会うために
歩み始めています
心で、聴いてください
地球交響曲

他の生物の生き様を見れば、人間の理解できないことがたくさんある。
それらについて虚心坦懐に心を開く。
彼らの声に耳を澄ます。
そのことについて地球交響曲は淡々と伝えていた。
その映画を見ながら、素直に受け取ることが難しい場面もあった。
人間の常識ではあり得ないと思うような出来事が、次々と語られていったから。
たったひとつぶの種から一万個以上の実をならせるトマトの樹を育てた野澤重雄。
文化や言葉を持つ象を、幼い時から育てることを可能にしたダフニー・シェルドリック。
宇宙空間にたった一人残されたとき、Cosmic Birthを感じたラッセル・シュワイカート。
無酸素で8,000m級の山を全山制し、霊性・知性・肉体の調和を訴えるライン・ホルトメスナー。
ケルトの魂を受け継ぎ、世界的な大ヒット曲を生み出したエンヤ。
彼らの話はどれも地球の魂が響き合うような、普段の生活ではすっかり忘れていた、異次元の話ばかり。それらの話はどれも顕在意識では捉えられない、潜在意識での会話のようだった。
そのなかでも特に印象に残ったのが、ダフニー・シェルドリックと、彼女が育て野生に還った象のエレナだった。
あの象に会いたいなと思ったが、無理だろうなとしか思えなかった。

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