アーニー・ガンダーセン 岐路に立つ日本

9/5にフェアウィンズ・アソシエーツのアーニー・ガンダーセンの講演を聴いてきました。その概要をここに記します。いつもと同様メモによるものなので多少の違いはあるかもしれませんし、ところどころ話しが抜けてしまっています。ご容赦を。

日本は今がチャンスである。なぜなら、原発を選ぶか否か、明確な選択ができる状況が整って来たからだ。そして、選択後にはその影響が大きく現れる。

かつてわたしはスリーマイル島事故の専門家として法廷で証言しました。この経験があったからこそ、みなさんの前に立っています。311が起きたあと、メルトダウンするとすぐにわかりました。当時、専門家がメールのやりとりをしていて、それを読んでいれば事実はほとんどわかりました。私がほかの専門家と違ったのは、それを公に発表したからです。スリーマイル島のとき、アメリカ政府はその事故のことを隠蔽しました。そのときわたしは妻と約束したのです。同じようなことが起きたとき、過ちは繰り返さないと。政府が過小評価するであろうことは予測できました。すでにスリーマイル島のときに経験していたからです。

CNNから連絡が来たのは幸いでした。アメリカの人たちに福島で何が起きたのか話せたから。あのとき日本政府はレベル4だと発表し、アメリカ政府はレベル5だと発表しましたが、そのときにはもう実はレベル7であることはわかっていました。

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石巻市長亀山紘氏の講演

9月14日に石巻専修大学でおこなわれた市民講座『藻から石油が取れるの? 市民のためのマリンバイオマスエネルギー理解講座』から、石巻市長である亀山紘さんの講演内容をまとめました。内容はメモと配付資料をまとめたもので、録音録画などをしてないので、大きな違いはないと思いますが、細かい部分では異なる内容が含まれているかも知れません。ご了承ください。

このまとめを読んでいただく前に、亀山さんのことについて少し書きます。亀山さんはネットを調べればわかるのですが、理系の市長です。市長の前職は石巻専修大学理工学部の教授です。しかも研究していた内容は「光触媒技術, 環境浄化触媒, 湿式太陽電池, 人工光合成, バイオマスの利活用, 水素製造, ポルフィリン錯体, アルカンの活性化, 酸素酸化」などであり、ここに述べられた内容はご本人が詳しく知悉している内容について講演なさっています。

亀山さんが震災後一ヶ月ほどで発表したメッセージがこちらにあります。講演内容と合わせてお読みください。

講演タイトル『海に生きる 〜小さな生物に未来を託す』

311震災のよって石巻市震災復興計画は次のように作った。私たちは「最大の被災都市から世界の復興モデル都市石巻」を目指す。

基本理念1 災害に強いまちづくり
震災の教訓を踏まえ、単なる「復旧」にとどまらず、防災基準・防災体制を抜本的に見直し、市民の命を守る災害に強いまちづくりを進める。

基本理念2  産業・経済の再生
農林水産業など再建・復興を促進するとともに、地域資源を活かした産業振興を図る。多様な自然エネルギーを最大限に活かしたエネルギー自立型社会を創る。

基本理念3 絆と協働の共鳴社会
「絆」を大切にするとともに、新たなまちづくりに共に働く仕組みを社会全体に広げ、「共鳴現象」を誘起し、豊かで支えあう地域社会の構築を図る。

これらを実現するために、311から一ヶ月後に以下のような三つの構想を発表した。

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『微細藻類が東北を救う〜田んぼからバイオ燃料』講演内容の要約

2011.9.8におこなわれた未来市場創造会×kyobashi TORSO 第1回 『微細藻類が東北を救う 〜 田んぼからバイオ燃料』の講演内容の要約を、未来市場創造会のBlogから転載しました。未来市場創造会Blogには、このときの映像もあります。こちら。

原芳道氏略歴
私(原芳道)は総合商社に入社してオーストラリアに10年間駐在、国際的なジョイントベンチャーを5社ほど立ち上げた。そのひとつが世界で一番大きいと言われるマウントニューマンという鉄鉱山。ほかにはテキサダ工業塩事業、アルウエスト・ボーキサイト、ワースリーアルミナ精錬などの事業を立ち上げた。その後南アフリカに行き、そこでもいくつかの会社を立ち上げた。10年ほど前に独立して、そのひとつの事業として、今日説明するプロジェクトがある。

スメーブジャパンは何をする会社か
スメーブジャパンでは、石巻で微細藻類ナンノクロロプシスのプラントを作り、養殖することによってまずはサプリメントの原料や、飼料などにすることで商売を成立させる。いっぽうで、大量培養によってできたナンノクロロプシスから、EPAを抽出する新たな技術を開発する。これによってナンノクロロプシスの価値が上がり、生産利益が高くなることが予想される。さらに、ナンノクロロプシスからバイオ燃料を大量に安く抽出する技術をも開発する予定である。これが可能になると、小規模のバイオ燃料製作プラントが廉価で可能になると考えられる。

提携会社であるイスラエルのシームビオテック社では、すでに火力発電所から排出される炭酸ガスを利用して微細藻類を培養し、バイオエタノール、バイオディーゼル、サプリメントを作る技術を持っている。このプラントでは普通の人が培養できる10倍の濃度で微細藻類を育てることができる。ここではNASAの開発した技術を組み合わせている。どのような技術かというと、微細藻類の光合成は水面から3センチまでのところで効率よく起こるため、そこでの光合成が効率的に起こるようにプールの深さと、その際の水流に特別の工夫を施すというもの。これらの技術に加え、商業的競争力をつけるために新たな技術を東北大と石巻専修大との協力を得て開発している。

微細藻類について
藻はもっとも古い生命だと言われている。彼らが存在したおかげで、地球上に酸素ができ、生命進化の下地が作られた。
藻はどこにでもある。私たちに一番親しみがあるものは海苔だろう。あれは紅藻に分類される。また、ワカメや昆布も藻類。しかし、今日話題とする藻類は微細藻類。有名なところではクロレラ、スピルリナ、ドナリエラなどがある。最近着目されているのがユーグレナ、オーランチオキトリウム、ボトリオコッカスなど。

なぜいま微細藻類からバイオ燃料を作ろうとしているのか。
70年代にオイルショックがあった。そのおかげで石油の値が上がり、アメリカでは中東に依存しないエネルギー体制を作るべきといろいろと研究がなされた。日本でも一時は活発だったが、オイルショックが終わると次第に熱が冷め、研究も下火となる。

アメリカではトウモロコシ農家に助成金を与え、トウモロコシからバイオ燃料を抽出できるように研究を続け、その結果、現在では10%以上の車がバイオ燃料を使っている。しかし、このバイオ燃料にはひとつ問題があった。原料が食料であるために、食料の価格が上がってしまったのだ。しかも、補助金が入るからと多くの農家が転作をはじめ、食糧問題にまで発展した。

いっぽう藻は、食料としてはあまり認知されてないので、いくらバイオ燃料を取っても食糧問題や、価格沸騰は起きない。また、単位面積あたりの油収量が他のバイオ燃料と較べて格段に高いのも理由。トウモロコシの200倍と言われている。しかも、ある程度の土地があれば、簡易プールで育てられるから、太陽光線と水さえあれば育てることができる。しかし、すべての微細藻類でそれができるわけではない。オイルを作り出す微細藻類と、そうでない微細藻類がある。

オイル産生藻類として、油を比較的多く作るのはボトリオコッカスとオーランチオキトリウム(別名シゾキトリウム)、そしてナンノクロロプシス。私たちはこのうちのナンノクロロプシスを選んだ。ダブリングタイムが短いため効率が高く、冷温下でよく油を作るから。

ナンノクロロプシスはオメガ3脂肪酸であるEPA(エイコサペンタエン酸)をたくさん含んでいる。EPAは青魚に含まれていると言われるが、実はその脂を作っているのはナンノクロロプシスなどの微細藻類。食物連鎖の結果、青魚に貯められているだけなのだ。だからもしナンノクロロプシスからEPAを取り出せるようになると、それは莫大な利益をその会社にもたらすだろう。その証拠に同じくオメガ3脂肪酸であるDHAを世界ではじめて微細藻類から抽出したアメリカの会社マーテックは莫大な利益を上げた。魚から採取すると、汚染のために含まれている重金属を除去しなければならないし、将来的に安定的確保ができるかどうか不安。ナンノクロロプシスからEPAの抽出は、現在超臨界や亜臨界の技術を使っての実験を東北大学にしてもらっている。

今回の震災でバイオ燃料は注目されるようになった。原発の問題がクローズアップされたからだ。政府は2030年までに原子力発電の能力を、電気総供給量の50%にまで持っていこうとしていた。しかし、それが難しくなった。

いっぽう世界では自然エネルギーの流れは次第に大きくなりつつあった。自然エネルギーの研究はアメリカでは1978年から続けられ、アメリカ政府は何億ドルもの助成金を与え、民間からもビル・ゲイツが5億ドル、エクソンモービルが6億ドル、BPが3億ドル入れたという話がよく聞かれた。最近熱心なのは中国。2015年にはアメリカで商業的プラントが立ち上がると予想されている。日本ではそれが2020年になると予想されている。そのための準備が急速に始まったようだ。

微細藻類は大きく分けて三つの分野に貢献できると考えられる。まず一つ目は医療・薬学関係。これはレッド・バイオテクノロジーと呼ばれる分野。ナンノクロロプシスで言えば、EPAの抽出とそのサプリメント化が考えられる。二つ目はホワイト・バイオテクノロジー。これはバイオ燃料の抽出などによる工業化。三つ目はグリーン・バイオテクノロジー。これは二酸化炭素の固定による環境浄化や、食料・飼料として利用することなどが考えられる。このように多岐にわたる応用ができる素材のため、ナンノクロロプシスの養殖は非常に可能性があると考えられる。

このような可能性のある微細藻類について日本人はほとんど何も知らなかった。なぜなら、これらを理解するためには学際的知識が必要だから。海外では博士号を三つくらい持っている人はざらにいる。しかし日本にはあまりいない。そのために微細藻類について横断的に知る人があまりいないため説明がなされてこなかった。微細藻類からバイオ燃料を抽出するためには「ヨコグシエンジニアリング」が必要。多岐にわたる学問に横串を通すように理解する人と、それを支える技術。

たとえば、いままでのソーラーシステムはただ広い土地に太陽バネルを置くだけだった。ところがヨコグシエンジニアリングが機能し始めると様々なアイデアが生まれる。たとえばこのダブルデッカーソーラーシステムはそのひとつ。太陽光発電とナンノクロロプシスの育成を同じ場所で一度におこなう。これが可能になるのはナンノクロロプシスの特性のおかげであり、それを理解した上ででしかこのダブルデッカーは可能にはならない。

日本は先進国になったため大企業の成長は頭打ちになった。日本のインフラ整備はほぼ終わり、高年齢化が進み競争力を養えず、電力と労働力を得にくくなったから。しかし、人脈と行動で状況は打破できる。諦めるのはまだ早い。