『未来市場創造会×kyobashi TORSO第3回 ~世界不況の中、地域を活性づけるエコノミック・ガーデニングとは?』報告

こちらからの転載です。

9月8日におこなわれた、『未来市場創造会×kyobashi TORSO第3回 ~世界不況の中、地域を活性づけるエコノミックガーデニングとは?』の報告です。

山本尚史先生による講演の概要は以下の通りです。

プロローグ

2050年には日本のほとんどの地域で人口減少が起きます。これは国土交通省国土計画局が発表した「国土の長期展望に向けた検討の方向性について」(平成22年12月)に書かれていることです。その結果、現在提供している都市的なサービスが提供困難になる恐れがあります。たとえば道路の整備不良や上下水道のメンテナンスが滞るというようなことです。このような状況は地方で特に激しく表面化し、地域企業と地域経済の悪循環が始まります。

この悪循環は「高齢化の進展」「福祉関連支出の拡大」「財政赤字拡大」「公的サービス劣化、地域の魅力減退」「事業継続や事業継承の減少」「地元での労働需要の減少」「若年層の流出」「税収減」「資金が地域外へ流出」「輸入品との競争」「全国ブランドやチェーン店への需要増加」「減益」「投資減少」などが複雑に絡み、その根源にある要素は「地元企業の生産品の需要減少」となります。もし「地元企業の生産品の需要減少」を抑えることができ、仮に需要を増加することができたら、これらの悪循環は好循環に変化する可能性があります。しかし、各地域でそのような未来が来るべきビジョンが描けてない。そのようなビジョンが描けるとしたら、それはどのようなものになるか。地域活性化が到達すべき要素は以下の通りです。

・仕事でも、生活全般でも、人々が共に生きていると実感できる。

・個々人多様な希望や要求が再短時間で実現できる。

・環境負荷を軽減する。

・開かれた、自立性のある、小さな共同体を作る。

これが実現するためには「先端技術を活用する里山共同体」を作るべきだと考えています。

そもそも地域の富の源泉とは何でしょうか? 地域の人々が「多様で」「つながっていて(内部も外部も)」「価値ある情報のやり取り」をしている状態といえるでしょう。そのためにはいままでの考え方とは違うものの考え方をしなければなりません。

たとえば、いままではいかに「供給拡大」をするかが課題でしたが、これからはいかに上手に「需要減少」させ、付加価値が残せるか。または、いままで地方行政は産業について考えてきましたけど、大括りの産業を考えるのではなく、ひとつひとつの企業に目を向ける必要が生まれるでしょう。いままでは「公平・平等・中立」でやってきましたけど、企業も人口も密度が下がるのですから、そのなかでどのように「選択と集中」をおこなうかが問われるようになるでしょう。さらに、いままでは景気の動向によって「緊急対策」を掲げてきましたけど、これからはじっくりと育てることのできる「長期的取り組み」が大切になるでしょう。いままでは地方行政にとって「企業誘致」が大切でしたけど、これからは大企業の誘致より、地元企業の長生や繁栄に重きを置くべきでしょう。

このような変化を受け入れて、地元に高い付加価値を残すことが地方行政に求められるようになってきます。これがうまくできないと、国土交通省が言っていたような状況があちこちで生まれます。その結果、東京や大阪のような都市にも影響が表れるようになるでしょう。

このような状況が生まれないよう、新たなビジョンを生み出すために、エコノミックガーデニングが必要となってきます。

エコノミックガーデニングを短い言葉で表現すると、以下のようなものになります。

企業家精神あふれる

地元の中小企業が

長生きして繁栄するような

ビジネス環境を創出する

歴史

エコノミックガーデニングは1990年代にコロラド州リトルトンから始まりました。すでに1980年代末から企業誘致に頼らない政策はないものかとリトルトンの経済開発部長だったクリスチャン・ギボンズが模索し始めたのです。その結果、2005年までに雇用2倍、税収3倍となったため、各地に普及し始めました。2006年から2010年にかけてエドワード・ロゥ財団にnational centerが設置され、そこで方法論の標準化がおこなわれました。現在ではオレゴン、フロリダ、ミシガンなど、各州の政策として取り入れられ、地方行政のメインストリームとして認知されています。

日本でも静岡県藤枝市、徳島県鳴門市、京都府などが実施準備に着手し、栃木県足利市、秋田県仙北市が研究中であり、その他にも各地の中小企業家同友会が勉強会などをおこなっています。類似事例としては秩父市の「Find Chichibu」との連携、さいたま市のテクニカルブランド企業認証事業、札幌市の先進的なGISサービスなどが上げられます。

 

エコノミックガーデニングのツール

エコノミックガーデニングをおこなうためには以下のツールが有効です。

1.企業の情報力を強化する

地方には情報があまり入って来ないということが都会の人には理解されていません。また、地方の人たちはそれが当たり前なので「足りていない」ことがわかりません。たとえば地方の図書館に行っても、企業情報のソースとなる専門誌や業界新聞などが入ってないところが多いのです。また、図書館自体中小企業が働いている時間が開館時間で、仕事が終わったら閲覧できないのが現状です。さらに専門家のアドバイスを受けられるような機会も少ない。なので、企業に必要な分析結果と提言がなされるような仕組みが必要です。さらに正確な情報を、影響力のある人に、効果的なメディアで伝えなければなりません。地域の動態を知るために地理情報システムが働いていることも大切です。

2.情報テクノロジーの活用

最近ではホームページを作る企業が増えてきましたけど、残念ながらまだあまり検索エンジンの最適化がなされてないため、なかなか閲覧されず、どうやって読者を連れてくるかが問題になります。SEOをおこなうのと同時に、地域ごとでのポータルを立ち上げるなどして、多くの人にきちんと情報が届くための施策が必要です。ポータルを立ち上げるとそこにはリンクが集まりますから、検索されやすくなり、ポータルに来ることでその地域の中小企業のページにたどり着くことも容易になります。

3.ソーシャルメディア

ソーシャルメディアが新しい社会をつくる可能性があります。現在よく利用されているソーシャルメディアは積極的に使うのがいいでしょう。たとえば、twitter、facebook、YouTube、Ustream、FourSqure、GO近所など。

双方向の情報流通をおこなうことで利用者による評価がクチコミ(buzz)として流れ、活性化されます。また、どのような人がいつどこでその情報を入手したかを調べることで、ネットワークの分析や、利用者のマッピングがおこなわれます。これらを効果的につなげることで、より波及効果のある情報の流れを生み出すことができます。

 

地域内連携

エコノミックーデニングをするのに大切のは、「今ここにいる人材」を地域で認知し、内外でつないでいくことと、地元企業を大切にして、事業継承、第二創業(異業種参入)を支援することです。そのためにはネットワーキングの仲介ができるように人選し、きちんと予算をつけ、一定の期間の任期を設けることが大切です。

地域での人的資産はこのようなものがあり、それぞれに多層的につながる必要があります。

産 実学 経営者、農家、消費者

学 知恵 教員、生徒、学生、芸術家、研究者

公 品格 首長、議員、行政

民 慈愛 市民団体、ジャーナリスト

金 信頼 金融機関、税理士、会計士

 

エコノミックガーデニング導入の道順

まずは誰かが「エコノミックガーデニングをする」と宣言します。

はじめの一年は合意形成に費やされるでしょう。地域や団体のリーダーたちの同意が必要です。首長、議会、商工会などです。そしてこれらのひとによく理解しいただきたいのは、長期的な政策であることです。たとえばリーダーが変わったら終わるようですと、エコノミックガーデニングの効果は現れてきません。そのためにも地元企業への聞き込みは大事です。どんなことがそこで求められているのか、どのような規模で実行すればいいのか。そのようなことをじっくりと確認し合いながら先に進め、継続する必要があります。

合意ができたら、中心となって働くスタッフに、手法や仕組みをよく習熟してもらいます。これにどんなに急いでも6ヶ月はかかります。

その後、まずは範囲の小さなパイロットプロジェクトをおこないます。実際にエコノミックガーデニングを始めると、思わぬ障害が出てきます。それらがどのようなものかよく知るためにもこの過程が大切です。もしその障害が根本的なもので、簡単には解決できない場合は、方法や規模について見直すチャンスが生まれます。

このようなステップを踏んだ上で、本格的に導入します。導入後も、実際に効果が現れるのにはどんなに短くてもさらに2〜3年はかかります。

この実践は都道府県単位より市町村単位の方がよいかもしれません。あまり範囲が大きいと、効果が見えにくかったり、効果が出るのに時間がかかったりします。

 

山本 尚史 略歴
昭和63年 三井銀行入行
平成2年  社団法人海外コンサルティング企業協会研究員
平成8年  世界銀行 人的資源・社会開発課コンサルタント
平成16年 ハワイ大学経済学研究科博士課程修了(経済学博士)
平成17年 国際教養大学国際教養学部助教授
平成23年 拓殖大学政経学部教授
著書:『地域経済を救うエコノミック・ガーデニング
〜地域主体のビジネス環境整備手法』
http://amzn.to/MJEllu
HP:http://www.economic-gardeners.jp

 

この講演ののちに、小田原でエコノミックガーデニング的な仕事をしている株式会社ヌースフィアデザインレイズの取締役山居是文さんに、小田原の有限会社野澤作造商店を例として現状を語っていただき、実際に野澤作造商店の取締役野澤尚和さんにおいでいただき、お話をうかがい、参加者と一緒にエコノミックガーデニングのプランを練りました。

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