創出版による「The Cove上映会とシンポジウム」

2010年6月9日におこなわれた、創出版による「The Cove上映会とシンポジウム」に行ってきました。このシンポジウムの直前に「ザ・コーヴ」を上映予定していた映画館二館が上映中止を発表したため噂を呼び、大変な盛況になりました。

まずは日本版の「ザ・コーヴ」が上映されました。ところどころ「?」と思ったところがありました。しかし、それは映画のなかの一瞬のことなので明確にココとなかなか指摘できないのですが、字幕が違うのか、画像を抜いたのか、いままで観てきた「The Cove」とはいくつか少し印象の違うところがありました。それらは僕の思い違いかもしれませんが、明確に指摘できるところはふたつありました。ひとつは、映画がほぼ終わるときに観客に向けて「行動を起こそう」的なことが伝えられていたのですが、それが抜けていました。それから、エンドタイトルが終わって映画が終わる直前に、クスッと笑えるようなシーンが挿入されていたのですが、それがカットされていました。太地町の警察官とおぼしき年配の人にスタッフがクジラの形をした風船を見せるシーンなのですが、多分その警官の顔をアップにして笑顔がそこに出て来ないとこの笑いの理由がわからないのでカットしたのでしょう。とにかく、日本人の表情はことごとくモザイクがかけられていました。かえってモザイクの方が不気味に感じます。すりガラスのようなモザイクだったので、うっすらと表情というか雰囲気が伝わってくるのです。

普通のシーンでもモザイクがかかると、何か不自然に見えてしまうじゃないですか。それがひとつの画面にあっちでユラユラ、こっちでユラユラしていたので、そのモザイクのユラユラに思わず笑ってしまいました。

それだけ配給会社はこの映画の配給にあたっては気を遣っていたようです。にも関わらず上映は中止させられてしまいました。そのきっかけはこの抗議行動だったようです。

http://www.youtube.com/watch?v=0X10NEbBDkU (これら5本の映像は2018年7月17日現在見られません)

http://www.youtube.com/watch?v=UrlnFoWuSJo

http://www.youtube.com/watch?v=R33Wzcdp52I

http://www.youtube.com/watch?v=a_LNjwrUW88

http://www.youtube.com/watch?v=gZg3-mIquMI

こののちに上映館に対して抗議電話が殺到したとのこと。どうしたものかなぁと思います。

シンポジウムには司会として月刊『創』の編集長篠田博之氏、パネリストとして森達也氏(作家、監督。オウムを撮った映画「A」で知られる)、綿井健陽氏(イラク戦争報道で知られる映像ジャーナリスト)、坂野正人氏(カメラマン・ディレクター。イルカの問題に詳しい)、鈴木邦男氏(一水会顧問。新右翼の論客)、野中章弘氏(ジャーナリスト)らが話をしました。内容はいつものようにメモに頼っているので、ニュアンスなど微妙にずれていることもあると思いますが、ご容赦下さい。

トークの開始時に映画配給会社アンプラグドの社長、加藤武史氏から中止騒動についての簡単な経緯が語られ、そのあとでサプライズとして「The Cove」の主人公だったリチャード・オバリー氏が短いスピーチをしました。

シンポジウムは時間がないということでほとんど議論はせず、それぞれのパネリストの意見交換のようになりましたが、いくつか面白い発言がありました。パネラーは全員「上映中止はよくない」という意見でしたが、それぞれの立場で微妙に言うことが異なり面白かったです。

ドキュメンタリー映画の監督、森達也氏の発言で笑ったのは、上映中止になったのは映画館選定のミスだという話。なぜなら、以前『靖国』というドキュメンタリー映画が、今回中止になった二館で中止になった経緯があったから。それに対して森氏はこんなことを言いました。

「でもこの選定ミス、実はミスして良かったんじゃないかと思います。だって上映中止となればニュースになって噂がまわって見たい人が増える。この手法を10年前に知っていたらぁと思います」

森氏は1997年に「A」というドキュメンタリー映画を発表、その反響を受け、2001年に「A2」を発表しています。

綿井健陽氏の話でそうだなと思ったのは、太地町の一般人を当人の許諾を得ずに映像に使用するのは問題ではないかと言うこと。それは確かにそうだと思います。しかし、あまりナーバスになってもいけないだろうなとも思う。どのような人の場合ならOKで、どのような人の場合はNGかは、個々のケースで判断しないとなりません。そこがジャーナリストの腕の見せ所のひとつともなっています。今回の「The Cove」ではいろいろな意見があり、何が正しいかは微妙です。立場によって正しいと考える基準が明らかに違うから。「The Cove」はそのようなときどうすればいいかを考えるいい材料と言うことになるでしょう。あの映画の中で「プライベート・スペース」とあだ名された人が顔を出し、メディアで意見を言い始めるといい議論ができると思いますが、言論に関しての素人がそれに躊躇する気持ちもわかりますので、つらいところです。しかも、実際にすでにこの映画による被害があるでしょうから、あまり無理は言えません。

綿井氏の意見と対照的だったのは坂野正人氏。坂野氏は日本人の事なかれ主義があれほどのモザイクをかけさせたのではないかと指摘しました。確かに意図しない文脈の中に勝手に意見を使用されるのは、誤読を生むことがあるので問題ではあります。しかし、もし正しい行動について批判されるなら、その行動をきちんと説明できる場が必要でしょう。多くのことをモザイクで隠すことで論議が生まれない可能性もあります。もしそうだとしたら、ドキュメンタリーにはどんな意味があるのでしょうか? 捕鯨やイルカ漁を正しい行動だと信じている人たちが、きちんと意見の言える状態や場が必要だと言うことを坂野氏は言いたかったのでしょう。しかし、現在太地町の人びとはメディアに対してあまり多くを語りません。役所関係はイルカ漁に関して黙秘を通しています。そのことが問題だというのは簡単ですが、一方で言えないことがあるというのも理解できないわけではありません。

先日、僕は伊勢神宮に行きました。そこでは神域で写真は撮らないでくださいと札が立っています。それに対して外人が来て「写真を撮らせろ、なぜ写真を撮ってはならない?」と言ったら、うまい説明はきっとできないでしょう。神道を宗教として尊重してくださいというのが関の山ではないでしょうか。どんな説明がなされるにしろ、その宗教を信じてない人にも納得できる説明がこれからはさらに求められるようになってくるでしょう。そしてそれは「うまく言えないこと」であったりします。同様にイルカ漁に関しても、それをしている人たちが、その行為について説明を求められているのです。それに対してどうにかして応えていかない限り、海外の人たちの不満は大きくなるばかりでしょう。日本人は「うまく言えないこと」をそのままにしておく傾向があります。それはそれでいいことがあるのも知っています。しかし、海外との交流が盛んになるにつれ、その「うまく言えないこと」を少なくとも「あるレベルで説明できること」にしたり、「説明できなくても納得してもらえること」にしていかなければならないでしょう。そのために何が必要なのか、このような機会を通じて考えていけばいいのではないでしょうか。

話を戻します。次に話したのは一水会の顧問である鈴木邦男氏でした。鈴木氏はこんなことを言いました。

「この映画で知らないことを教えられました。この映画を見て議論すべきだと思います。この映画が反日だと決めつけて上映させないのはおかしいと思います。みんなで見てから反日であるかどうか考えればいいじゃないですか。これが反日だと決めつけてしまうのは、(結果として日本人から考える機会を奪い、この映画を観て日本人が間違った方向に行くだろうと考える人たちが)日本人を信じてないと思います。やり方が卑劣だ。たかが数十人が邪魔をしたからとこれが見られなくなると言うのは間違っている。この作品が反日だと騒ぐ人こそ反日だと思う。まあ、僕も昔は似たことをしていたけれど・・・。見る前は反日だと言われていたので、どんな作品かと思っていたけど、見たらお見事と思いました。エンターティメントとしてお金も時間もかけてある。これを見た上で、論じ合って欲しいと思う作品でした」

このシンポジウムが終わり、しばらくしたら鈴木氏は壇上にいたので、近づいて質問しました。かつては似たようなこと(あまり他人の話を聞かずに一方的な決めつけで街宣活動などをしていた)をしていたけど、やめたとおっしゃっていたので、それはなぜやめたのですか? と聞きました。

「多くの人が僕の話を聞いてくれる場が持てるようになったからだね。そういう状態が責任ある発言をするようにさせてくれる」

鈴木氏はそう応えました。

野中章弘氏の発言で印象に残ったのは、最初の一言でした。
「人間はみんな偏っている。みんなが少しずつ偏っているから全体としてバランスが取れる」
まったくそうだよなぁと思いました。そして「言論の自由は憲法があるから存在するのではない。ジャーナリストが戦って勝ち取ってきたものだ。ジャーナリストが組織の中に入ると個が埋没して考えなくなる。レッテルを張ることで物事が流れていってしまう」
「この映画はいろんな問題が含まれている。それをゴッチャにしたまま考えてもあまり意味がない。言論の自由に関して、表現の在り方に関して、イルカ漁に関してと問題を明確に区別することではじめて解決の糸口が見つかるだろう」

ほかにもいろいろな話がありました。それを丁寧に書いていくと長くなるので、ここでは話の順序など無視して、僕が気になった部分を書きだしました。興味のある人はこちらでシンポジウムの様子を見ることができます。

前半http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/541
後半http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/542

“創出版による「The Cove上映会とシンポジウム」” への1件の返信

  1.  以前こちらに書かかせて頂きましたが、実は懸念していた、このような上映自粛の動きが出てきたことは、本当に日本はまだまだだと思います。いえ、シンポジウムなども拝見していて、もしかすると最近の内向き傾向が一層強まっているのだろうか?とも思ったり致しました。

    「うまくいえない」宗教上のことは、多くは「みえないけれど確かにそこにある」何か、ではないでしょうか。
    最近やっと認識したのですが、見えないことが大切、なのではなく、大切なことは見えない、のです。おそらく、その残り香を大事にするあまりに人々はサンクチュアリを設け、その余韻を永遠に感じていたい、という欲求を世代を超えて受け継いできたものと思われます。
    しかし、実はそれらは一人一人のすぐ隣にあるのです。それを見つけるには…それぞれが目覚めねばなりません。

     禅問答のようなことを書きましたが、おそらくニンゲンはそのためにこそ存在しているのではないか、で、ないと、この地球上で最も脳を効率よく発達させてきた理由がわからない、と思います。
    「all for one, one for all (un pour tous, tous pour un)」という言葉を生み出せたのですから、ニンゲンにはまだまだ可能性は無限大のはずやと信じています。

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