映画「MINAMATA」ってどう?

週刊金曜日の2021年9月17日号に「映画『MINAMATA』から消された人物が語るユージン・スミス」という記事を書きました。7ページの扱いです。

それを書くために映画『MINAMATA』の試写会に行き、ユージン・スミスの写真集『MINAMATA』を見て、インタビューした石川武志さんの作品集も見ました。すると、いろいろと映画『MINAMATA』の問題点がわかってきました。それぞれの写真集に添付されていた年表を丁寧に見ていくとそれがわかります。

これ以降はネタバレがありますので、嫌な方は読まないでください。

映画としてはよくできていると思います。ユージン・スミスの写真集『MINAMATA』を読み込んで映画を見ると、とても引き込まれます。写真集の作品が動画になっていたりします。この部分は写真集を前もって見ていない人にはわからないでしょう。ユージンの『MINAMATA』以外の写真集からも引用されているので、ユージンの写真をよく見てから映画を見ると、感動の度合いが違うと思います。

制作チームが訴えたいポイントもはっきり表現されていて、それはフィクションを見るという点では、いいことだと思います。しかし、この映画はノンフィクション的に作られていますので、映画で見せられたことがすべて事実かというと、かなり違う点があるので要注意です。

そもそもインタビューした石川武志さんの役が映画には出てきません。石川武志さんはユージン・スミスが水俣にいた三年間、助手を勤めていたかたなのです。映画の宣材写真の多くも石川さんが撮影したものを使用しています。ジョニー・デップがユージン・スミスを演じている写真もあり、それは石川さんの作品ではないですが、本物のユージン・スミスを撮った写真はほぼすべて石川さんの作品で(どこかに確認したわけではないので、すべてかどうかはわかりませんが、僕が見た範囲ではすべてでした)、その多くは石川さんの写真集『MINAMATA NOTE』に掲載され、写真のどこかに©Ishikawa Takeshi と入っています。

物語としてはとても面白かったです。事実と起きることの順番が違うのですが、三年間の取材期間をニ時間程度に縮めるのですから、ある程度のことには目をつぶらなければなりません。でも、と首を傾げたくなる点がいくつかありました。

もっとも大きいのは、「チッソ」と社名を出しながら、「チッソ」がしているという証拠のない「賄賂を送ろうとする」「放火する」などの出来事を、物語の中に織り込んでいることです。チッソ(現JNC)は困るだろうなと思います。事実を知らない、映画だけを見た人は、きっとそれが事実であると勘違いするでしょう。そこが一番の問題です。

もうひとつの問題は、映画の最後でユージン・スミスが暴力を振るわれて怪我をするシーンがありますが、あの暴力事件は現実には五井事件と言います。千葉県の五井工場であった事件です。でも映画では、水俣の工場で起きたかのようでした。実際の事件では、ユージンにそれほど外傷はなかったそうです。だから、ラストシーンにでてくる包帯グルグル巻きのユージンはフィクションです。現実には、沖縄戦を取材したとき爆撃され、大けがをした爆弾の破片がまだ体内に残っており、それが五井事件の打撲で神経を圧迫するようになり、調子の悪いときには手が上がらなかったりしたそうです。そのときどきで症状が違うので、他人から見ているとその苦しみはよくわからなかったそうです。石川さんのようにずっと一緒にいると、もうあまり長生きはできないだろうと感じていたそうです。

ラストシーンの入浴シーンは、現実には五井事件の前に撮影されました。なので、そういう意味でもあのシーンの包帯グルグル巻きはフィクションです。

物語としてはとても面白いので、見るべきだと思います。ただ、あれがすべて事実だと思い込むと、間違いが生じるでしょう。あの映画を見て水俣に興味を持った人は、事実が何かを調べてみてください。石川さんのインタビューの内容については、週刊金曜日をご覧下さい。

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