たった三日で102万回

週刊金曜日の2019年1月25日号に水俣病についての話を書いた。
すると映画「MINAMATA」がジョニー・デップの主演で撮影されていることを知る。
興味を持って調べると、助演者に美波という女優の名があった。
その人のことをまったく知らないのでネットを調べると、美波という人は二人いて、一人はその女優の美波、もうひとりは歌手の美波。
同じ名前が二人いたらややこしいだろうなと思いながら歌手の美波についてさらに検索すると、三日前にYouTubeに上げられた楽曲を見つけた。「カワキヲアメク」という曲。見ると、たった三日で102万回再生されている。おや、と思い聞く。
若者の苦しさが歌われていた。その苦しさは若者特有のもののようでいて、現代の病理につながっているもののように感じた。

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感情ってなんだ? Prayers studio「卒塔婆小町」を見て

意識とは何かという問いはいまだ答えが出ていない。意識とはこういうものという定義に従って判断する人や、意識とは意識だと開き直る人はいるが、本当に意識とはどういうものかを誰も反論させず納得のいく形で説明した人はまだいない。同様に感情が何かをすべての人に対して説得できる人もいない。

感情とは何かをどれだけ説明されても、きっと感情は動かない。だけど感情に動かされてしまった人の声は、他人に伝わる。電車の中で必死に何かを訴えている子ども。母親が無視したり「いい加減にしなさい」と怒っていたりすると、子どもの感情が乗った声はそばにいる人の感情を逆撫でしてしまう。

Prayers studioのドラマトライアル「卒塔婆小町」を見て、俳優にとって「声」は、演技よりももしかしたら大切なものかもしれないと思うようになった。なぜなら、そこには感情はもちろん、年齢や立場まで表現されていたから。

「卒塔婆小町」は三島由紀夫の「近代能楽集」に収められている。能の「卒都婆小町」からインスパイアされてできた作品。能の「卒都婆小町」の概要はこうだ。

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「おとなのかがく」を見た

映画「おとなのかがく」を見た。感想を書こうと思っていたのだが、なぜか書けない。面白かったのである。しかし感心した点は永岡昌光の技術でもなく、技術流出の事実でもなく、いったい何なんだろう?と思っていた。もちろん永岡昌光の技術に驚いたし、技術流出に心を痛めた。だけど僕のツボはそこではなかった。でも、どこがツボなのかはっきりわからなかった。何かが心に響いたのだが、何が響いたのかわからない。はて?

監督の忠地裕子さんと出会ったのは、小さなバーだった。その片隅で忠地さんは酒を飲みながら不機嫌でいた。美大は出たが有名なアーティストになるわけでもなく、好き勝手に生きているようだったが、満たされてはいなかった。何か作品を作りたいと思っていたようだが、作ったとして何になろうか? 余程インパクトのある作品を作らない限り、それは消費されるだけだ。無名のライターである僕にとってその痛さは自分の痛さでもあった。その彼女がドキュメンタリー映画の監督としてデビューした。

切々と撮影された映像は、冒頭のテオ・ヤンセンのストランド・ビーストのシーン以外はとても地味なモノばかりだ。細かい作業をする手先。狭い部屋での作業。台湾や中国の工場。それを見ているときは侘びしいとか寂しいとか思わなかった。だけど心のどこかにその種が宿った。その種はホコリのように小さくて、心の表面をようく撫でないと見つけられなかった。ようく撫でて見つけたざらざらは、しばらくなんのざらざらなのかわからなかった。そして、そこにあるのはささやかだけど、豊かさだと知った。

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