珈琲豆おこのみばいせん処

先日、用があって永福町に行った。約束より15分ほど早く着いてしまったので駅のそばをフラフラと歩いていると『珈琲豆おこのみばいせん処』というお店を見つけた。最近江古田にあった焙煎してくれるコーヒー屋さんがなくなったので、焙煎したての珈琲をずっと飲みたいなと思っていたのだ。

珈琲が好きな人なら、挽きたての珈琲か否かで味が違うのはよく知っているだろう。挽きたての珈琲は香りの立ち方が違う。もちろん状態にもよるが、挽きたての豆だと2〜3倍の香りが立つと僕は思っている。だから珈琲は必ず豆で買い、うちで挽いてから淹れる。この違いは恐らく誰にとっても明らかだろう。しかし、焙煎したてかどうかは、これほど明らかな違いを珈琲の味にもたらすわけではない。一番の違いは気持ちへの作用ではないかと思う。

焙煎したての珈琲の何がいいかというと、珈琲を淹れるときにそれがわかる。僕はたいていドリップで淹れるのだが、ドリップでお湯を落としたときに珈琲豆が豊かに泡立つ。焙煎してしばらくたってからの豆だと、少しは泡立つかもしれないが、焙煎したての珈琲の泡立ちにはまったくかなわない。焙煎したての珈琲の泡立ちは、その泡がギネスビールのようにしっとりとふっくらとしたものになる。この様を見て「うまそう」と思ってしまうのだ。そして、なぜ泡立つかと言えば、豆に含まれた香りなどを含む揮発成分が、まだたくさん残っている証拠だと思うのだ。

泡立つことから確かに揮発成分がまだ多く含まれていることは予想できるが、味に大きな違いがあるかどうかは微妙だ。珈琲は豆によってまったく味が違うので、その違いが焙煎したての揮発成分のためなのか、たまたまその豆に起因していることなのか、はっきり特定できない。しかし、豊かな泡立ちを見てしまうと、もうその珈琲が美味しく見えてくる。この影響が大きい。

ビールがジョッキに注がれることを思い出すとよくわかる。細かい泡をたっぷりと含んでいるジョッキと、泡がなく黄色の液体だけがただジョッキに入っている状態とどっちが美味しそうだろうか。珈琲の場合はビールのように泡自体を飲むことはないが、淹れる際に泡が豊かに現れるとそれだけでうっとり、香りも素敵に感じ、うまいとしか思えなくなる。そう、つまり珈琲のファースト・インプレッションが格段によくなるのだ。そして、その余韻とともに珈琲を飲めば、いよいよ珈琲が美味しく感じられる。

だから、用が済んだらさっそくそのお店に行ってみた。泡モコモコの珈琲をなんとしても飲みたいと思ったのだ。

トップの写真のとおり、豆は何種類も準備され、みんなまだ焙煎されてないため褐色ではない。この豆から好みの豆を選ぶ。今回はマンデリン・ビンタンリマを選んだ。マンデリンは酸味が少なく苦みが優先されている豆だ。酸味がないのでちょっと物足りなく感じることもあるが、そんなときには酸味の効いた豆を少し加えると良い。焙煎を頼むとこのマシンで五分ちょっと焙煎してくれる。

焙煎が終わるまで店員さんとお話しした。まだ多くの人が珈琲を焙煎すると言うことがどういうことなのか知らないという。お客さんによっては「この店の豆はどうして褐色じゃないのか」と質問してくるそうだ。焙煎の価値についていろいろと話していると、店員さんは喜んでくれた。そして、店内に珈琲の鉢植えがあることを教えてくれた。目の前にあったのだが、それが珈琲の鉢植えだとは気がつかなかった。

]

そこには豆が付いていたので取ってみてもいいかと聞いた。店員は躊躇した。そこで、珈琲の実を割ったことがあるか聞いたら「ない」という。「本当にこの実のなかに豆があるんですかね?」と聞いたら、「そうなんじゃないですか」という。
「見たことないの?」
「写真でしか」
「じゃあ、この実を割って、中を見てみようよ」
と共犯関係を持ちかけ、それでも渋る店員に「葉で隠れた見えないところの実を取るからさ」と強引に誘惑し了承を得る。取った実がこちら。

この実に爪を立ててみる。プチッと言って中から水分が出てきた。水分はぬめりがある。

むいてみると赤い実の中は、ほとんどが珈琲の豆だ。

この豆を乾燥させると珈琲豆になる。その状態がトップの写真の、薄い緑というか、薄い褐色の豆だ。そして、それを焙煎することで、僕たちがよく知っている珈琲の豆となる。

このBlogを書きながら、買ってきた珈琲を飲んでいる。もちろんモコモコの泡立ちを見たので、とってもおいしい。

“珈琲豆おこのみばいせん処” への2件の返信

  1. 私、実は昔コーヒー屋(某コーヒー会社勤務)だったのですが、コーヒーは焙煎したてかどうかは挽きたてかどうかと同等かそれ以上に味に影響すると思います。
    特に媒染直後はどんどん酸化するので日々味が変わります。

    普通は焙煎したてが美味しいですが、状態によっては1週間くらいたった方が落ち着いてまろやかになったりする場合もあります。なのでおっしゃる通り、挽きたては間違いなく美味しいですが、焙煎したては必ずしも美味しいとは限らないですね。

  2. Mr.Spiceさん、ようこそ、
    なるほど、やはり味は変わるのですね。
    でも、僕には焙煎してから経過した時間の違う豆を、並べて一度に味わう機会でもないと、どう違うのかわかりにくいです。
    微妙な味の差って、なかなか記憶できないんですよね。味って体調によっても変わるような気がするし。
    焙煎したてが必ずしも美味しいわけではないというのは知りませんでした。
    教えていただきありがとうございます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です