イルカの水銀汚染について

ドキュメンタリー映画「The Cove」については何度かここで書きましたが、先日、エルザ自然保護の会から書類を送られました。ひとつは鳩山新政権に対しての公開質問状。もうひとつはその内容を送る際のプレスリリースです。以下にPDFとして設置します。

公開質問状はこちら。

プレスリリースはこちら。

「The Cove」の報道で感じたのは、「The Cove」のシホヨス監督が訴えたかったことがほとんど伝えられなかったと言うことです。多くの報道ではイルカやクジラを食べるのは日本の文化だ、それを守るべきだという雰囲気が伝えられました。

確かにシホヨス監督ははじめ、なぜ日本ではイルカ猟をするのかを知りたくてあの映画を撮ったそうです。そして、そのことを通して、イルカ解放運動をするリチード・オバリーと、イルカ猟をする漁師たちがどんな対立をしているのか、その対立の構図を明確にしたかったそうなのです。だから日本の文化にとってはお節介と言えばお節介なのですが、その行程でイルカやマグロなどの水銀汚染について詳しく知ることとなったそうです。だから、そのことは伝えなければならないと、映画に盛り込んだのです。

水銀汚染は、もし伝えられていることが事実であるとするなら、かなり深刻な内容です。厚生労働省ではこちらのページで、妊婦は食べない方がいいと警告していますが、水俣病を研究している学者のあいだでは、妊婦以外の人も食べない方がいいのではないかと考えている人が多くいるそうです。私はその学者のうち一人の方に電話でインタビューをしました。その人は名前は出さないという条件の下で教えてくれました。水銀が人間にどんな作用を及ぼすのか、実際にはなかなか研究できません。なぜなら水銀を人間に与えて、その結果どんな影響が出るのかと言うことを研究する機会が持てないからです。水俣病ではこうなった、だから、、、と推測するしかないそうです。その推測はあくまで推測なので、あまり公にすると風評被害になっていく可能性があります。だからみんな口を噤むのです。もしこの話が急速に広まり、漁業に影響が出たら、誰が責任を取るのか。誰も責任を取ることができません。だから口を噤むのだそうです。

しかし、もしそれが事実だとしたら、実際に被害を受けるのは、そのことを知らずにイルカやマグロなどを食べてしまう私たちです。

イルカやマグロに水銀が含まれているのは厚生労働省が認めています。そしてそれは一定量以上を妊婦が食べ、へその緒を通じて妊婦から胎児に与えられたら深刻なダメージになるだろうということも認めています。そのことは常識として私たちは知っておかなければなりません。その上で、成人でも水銀の影響はあるだろうということも可能性として知っておくべきでしょう。さらに、水俣病の研究者たちは、そのことを知っているがために、イルカはもちろん、マグロやカジキなども食べないでいるということも、頭の片隅には留めておくべきでしょう。具体的な実験ができないのではっきりはわからないそうですが「水銀は一度脳に蓄積されたら排出されないように思える」と、インタビューした学者は話してくれました。

そのことを知った上でもイルカを食べたい人は食べればいいと思います。しかし、それを知らずに食べるのは危ないですよと言う警告なのです。この警告が結果としてイルカ漁をやめさせることになるかもしれません。しかし、それは日本文化を壊そうとして警告しているのではないということは知っておくべきです。

僕はイルカ漁やクジラ漁を禁止したいとは思っていません。しかし、イルカにそれだけ高濃度の水銀が含まれるのであれば、食べない方がいいのではと思っていますし、最近ではなるべくマグロやカジキは食べないようにしています。イルカはいつか食べてみたいと思っていましたが、水銀が含まれるのであればもう食べたいとは思いません。

このことに関してのレポートは後日、週刊金曜日に掲載される予定です。掲載されたらまたこちらから報告いたします。

日本人に鯨を捕るなという人々

このところイルカ・クジラ関係のことばかり考えていて、頭の中がイルクジ状態です。(←なんだそれ)

「日本はなぜ世界で一番クジラを殺すのか」という反捕鯨の本を読んだので、今度は正反対の捕鯨擁護本を読んでみました。タイトルは『反捕鯨?:日本人に鯨を捕るなという人々(アメリカ人)』です。『日本はなぜ世界で一番クジラを殺すのか』は幻冬舎文庫から出版され、一般読者向けの本なのでとても読みやすかったのですが、『反捕鯨?:日本人に鯨を捕るなという人々(アメリカ人)』は論文で、少々読むのに難儀しました。これを読んで、何が日本人の目を世界の認識からはずしてしまうのかがちょっとわかりました。

この本では「なぜアメリカ人が日本以外の捕鯨を認めるのに、日本の捕鯨は認めない傾向にあるのか」を考え、この問題に関してどれだけアメリカ人が日本人の話に耳を傾けないか、その理由は何かを社会科学的方法を用いて論じています。

この本の内容については直接あたっていただくこととして、僕がなるほどと思ったことをここに書きます。

よく新聞などで「なぜ他国の捕鯨は許されるのに日本は許されないのか」と書かれています。『反捕鯨?』のなかにもそのような記述が何回か見受けられます。しかし、その認識自体が他国とは違うのです。丁寧に書くと日本では「同じような国が、同じように捕鯨を主張しているのに、なぜか日本だけが捕鯨を許されない」と一般の人は理解していると思いますが(きちんとこの問題を把握している人は違うでしょうけど。ま、僕の場合はそんなふうに把握していたってことですね)、ほかの捕鯨国をリストすると、日本とは事情が違うことがはっきりします。

ほかの捕鯨国とは「アラスカ(のイヌイット)」「グリーンランド」「アイスランド」「ノルウェイ」です。並ぶとすぐにわかりますね。北極海に面している国ばかりなのです。つまり、目の前の海が北極海なのです。しかも、どこもとても寒い地方です。食糧確保はあまり簡単とは言えないでしょう。それらの国が食糧確保のためにクジラを捕るのです。日本の場合はすでに経済大国と言われるほどの十分な食料供給が可能にもかかわらず、自国の領海から出て、わざわざ北極海まで行ってクジラを捕るのです。地方によっては一年中作物を畑に植えられるような土地柄でありながら、畑を維持し続けることはできない国と、食糧確保について同じようなものだと主張しているのです。この段階でほかの国と日本の差がはっきりしたと思います。

映画「ザ・コーヴ」のシホヨス監督の記者会見にこんな発言がありました。

「伝統的な捕鯨と日本人は言うけど、その歴史はせいぜい何十年か、私の母親が生まれた頃からでしょう」

これを聞いたとき、僕は「おや?」と思いました。日本では縄文時代から捕鯨がされていたといわれています。それをなぜこの何十年かというのか、そこに疑問を持ちました。最初に思ったことは「日本のこと知らないな」でした。しかし、あとでよく考えました。「現在の捕鯨法を採用したのが何十年か前」という意味だったのだろうと。ノルウェー式捕鯨というやつです。ノルウェー式捕鯨とは動力付きの捕鯨船に銛を発射する捕鯨砲を搭載させ、それでクジラを撃つ、いまでは捕鯨と言えばそれしか思い浮かばない、あの方法です。ノルウェー式捕鯨はウィキペディアによれば1864年にできたと書かれています。それからは100年以上たつのですが、それが日本に採用されたのがシホヨス監督は何十年か前と思ったのでしょう。

伝統的な捕鯨とは何かと言えば、捕鯨砲で撃つ銛とは違い、人間の力で投げられる程度の大きさの銛を使ったものです。または網で採る方法もありました。これなら伝統的な捕鯨と言えるでしょう。しかし、その捕鯨法はいまでは使われていません。つまりアメリカ人が思う伝統的捕鯨法と、日本人が思う伝統的捕鯨法では隔たりがあり、しかも、日本人は「伝統的」と言いつつも、最新鋭のノルウェー方式で捕ることを当たり前としているのです。海外の人たちから言わせれば「なに言ってるの?」と理解されないのもうなずけます。

これらの認識のズレを埋めない限り、話はうまく行かないだろうなと思う一方で、IWCに参加している人がこんな簡単なことを知らないはずはないと思い直しました。では、いったいなぜ話がうまくいかないのでしょう? 僕がしていた勘違いは、日本国内に向けてのプロパガンダの結果であって、IWCの席上ではこんな認識ではやりとりできないと思います。真相はいったいどこにあるのでしょうね? それがわからない限りいつまでたっても日本は他国から誤解され続けるのではないかと心配です。

こう書きながら、僕はそれでもクジラを食べたいと思っています。生姜やニンニク醤油につけて食べるクジラの刺身や、から揚げが大好きです。なのであれらが食べられなくなるのは悲しいと思いますが、そのことと自然保護のための会話とをゴッチャにしてはならないと思います。可能であれば、イルカやクジラの頭数を守りながら、おいしいクジラ肉を食べられるようになりたいです。